京都の町は、都が置かれた平安時代から戦国時代を経て、現在までの長い歴史が幾層にも重なって存在しています。多くの人たちを惹き付ける魅力はそれぞれですが、四季を問わず時代を超えて京都を旅する人の数は増えています。
広い町ではありませんが奥が深い京都を訪れる前に、訪れる目的を明確にしてプランを組む事で、自分だけの京都を堪能する事が出来ます。
京都の和菓子を堪能する
京都の町には和菓子を売る店が数多くあり、ガイドブックなどに載らないような小さな店構えでもそれぞれに歴史を重ねています。これらの多くの和菓子店を京都では、贈り物などに使われる「上菓子屋」と日々のおやつや節目のお菓子を買う「おまんや」の二つに大きく分けられています。
上下の区別は無く、目的によって使い分けられるこれらの和菓子屋には京文化の継承も担う一面もあり、店毎に自慢の和菓子が揃っています。「おまんや」の店先は季節毎に変化し、夏越の祓えには「水無月」秋には無病息災と子孫繁栄を願う「亥子餅」などが並び、他にも数え切れないほどの期間限定の和菓子が存在します。
大路から外れた小路に佇む店を訪れて自分だけの和菓子を見つける事は、ガイドブックには出ていない京都の違う顔を発見する楽しみの一つになります。
京都のうどんを楽しむ
京都の料理は出汁がしっかりと沁みた物が多く、うどんも例外では有りません。うどんのコシよりも出汁の味がしっかりと沁みたうどんが京都では多く提供されています。シンプルの極みとも言えるのが、具が一つも無く黄金色の出汁餡をかけた「あんかけ」と呼ばれるメニューですが、これは天盛りにした土生姜と一緒に食します。
冬は厳しい寒さになるので、京都の人々に身体が温まると人気ですがこれも出汁が効いているからこその一品と言えます。「きつね」と「たぬき」は全国的に有るメニューですが京都の「きつね」は大きな揚げがそのまま乗るのではなく細く刻んで供されます。
「たぬき」は出汁が餡でとじられて、とろりとした汁で供されます。両方のメニューに共通しているのは揚げですが、じっくりと沁みた出汁こそが美味しさの要となっているのです。
京の漬物を訪ねる旅
京土産の定番にもなっている漬物ですが、京都が漬物の名産地になったのは「底冷え」と呼ばれる特有の気候が大きく係わっています。寒さが厳しく湿度の高いと言う特色は雑菌の繁殖を抑えながら発酵を進めるという理想的な条件でした。
こうした環境を利用して作られた京漬物の中で代表的なのが「しば漬け」や「すぐき」で特に「すぐき」は京都でしか作られていない珍しい漬物です。
土や水が変わると菌の種類も変わる為に味が変化してしまうので、現在でも昔ながらの土地と道具で作られています。元々は上賀茂神社の社家だけに許されていた特権で、御所に献上する為に作られ、口にできるのは貴族階級のごく一部の人たちだけで、一般の庶民が食べられるようになったのは江戸時代以降と言われています。
「しば漬け」は平家物語に出てくる建礼門院が寂光院で侘び住まいをしていた時に、心を慰める為に土地の人々が工夫した漬物を届けた事に由来します。この漬物が広まったのは大原女の役割が大きいと言われます。商品を買ってくれる得意先に手土産にして渡した事が評判になったのがきっかけで流布していく事になりました。
漬物一つにも深い歴史を秘めていると言うのも京都の魅力です。
京都の奥義は「おばんざい」
「おばんざい」と言うジャンルが京グルメの一つになっていて、京都を訪れたらぜひ食べたいという人も多くなっています。京料理は気候風土に合った素材を生かした料理で雅なイメージがありますが、「おばんざい」はこうした料理とは一線を画します。
「お番菜」と書くように「常にあるもの」と言う意味合いが有ります。京都は内と外を非常に大切にしていて、これは「ハレ」のおもてなし料理と「ケ」の日常の料理の区別にも繋がります。「お番菜」は「ケ」の料理であって表に出てくる料理では無いのです。
味が不味いと言う意味ではなく、プロの料理人が作る料理ではないという意味で、毎日過程で食される家庭料理なのです。代表的な「お番菜」は「たいたん」と呼ばれる料理で、「炊いたん」と書くようですが煮物と言い換えられると京都の人は違和感を憶えると言います。
プロの料理人が作らない料理とされる「お番菜」ですが食べる日が決められていた料理もあって、縁起物や言葉の語呂袷で決められていました。現在のような雇用形態ではなく子供の頃から丁稚と呼ばれて雇用され行儀の躾けや言葉使いを習いながら働く多くの雇用人を抱える商家などにあった風習です。
京都の日常的な食文化は「お番菜」に支えられてきたのです。
京都の意外な味を食べ歩く
京都は薄味と言うイメージが強いのですが、思いのほか京都の人は濃い味を好みます。醤油などで色濃く煮ると言うのではなく出汁や塩でしっかりとした味に仕上げています。京土産の一つにもなっている「ちりめん山椒」や「しいたけ昆布」などは京都の日常でもご飯と一緒に食されますが、かなり濃い味付けになっています。
調味料と言えば醤油や酢のイメージが強いものですが京都では七味や山椒が欠かせませんし、すっきりと辛口の地ソースのメーカーも存在しています。お好み焼きの原型といわれる「一銭洋食」や京野菜の一つ九条ねぎを使用した「ねぎ焼き」を含めて、お好み焼きやたこ焼きの名店は京都に数多くあります。
朝食はパンと言う家庭も多く、こだわりのパンを焼くパン屋も充実していて京都を訪れた人が京土産として購入していく姿も見受けられます。パン食に伴って美味しいコーヒーを提供する喫茶店も数多く、歴史を刻んだ名物店が健在です。
長い歴史を経てきた京都ですが新しいものを違和感無く受け入れる気風も備えているので、京都には多様な食文化が花開いています。多くの中から好みのものを見つけ出す楽しみが京都の町にはあるのです。
京都発祥の納豆を食べる
京都の人は納豆が苦手だと言われてきましたが、納豆の発祥は京都だという説があります。南北朝時代に政争に敗れて出家をした光厳天皇が開いたとされる「常照皇寺」での事です。修行をされる光厳法王のところへ村人が藁に包んだ煮豆を届け、これを大事に食べている間に発酵して納豆になったと言われています。
こうした伝統に支えられて、京都には納豆を作り続けているメーカーがあり、そのうちの一軒は130年以上の歴史を持っています。京都の納豆は糸を引く煮豆と言うイメージが強いのですが、素材の味を大切にする京都の風土に根付いている食文化です。